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【性暴力】「週刊少年ジャンプ」が持つ”責任”ってなんだろう【連載打ち切り】

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1s-週刊少年ジャンプ


ぼくたちは/男子たちは 狼なんかじゃない。


先日、週刊少年ジャンプの「エロ」や「性暴力」描写についての改善を要求するキャンペーン「ぼくたちは/男子たちは 狼なんかじゃない。」が話題になっていました。
これは署名を募集するサービスを実施しているchange.orgというサイトに登録されたキャンペーンなのですが、そのキャンペーンを発信している方のご説明に以下のように記載されていました。

当時小中学校の時はToLOVEるなど女子と性的なコミュニケーションを取る漫画をハラハラドキドキしながら読んでいました。しかし大学生も後半の頃に当時ToLOVEるを読んでいなかったという友人(男)に出会いました。その時僕は理解ができなくてしどろもどろ興奮しながら「男なのに!?意味がわからない」と発狂しました。しかし今は「性暴力」と「女性も同じ人間」だという事を知っているので、彼がなぜToLOVEるなど性的な作品を読まなかったのか理解できます。「相手の同意を取らずに性的な行為をするのは性暴力で、相手の心を傷つけること」「女性の体を見境なく性的に見ることは当然のことではないこと」ということを当時の僕が知っていれば僕も彼と同様ToLOVEるなど性暴力を扱う作品を楽しく読むことはなかったでしょう。「性暴力含むエロを豪胆に愛して憚らないのが男らしさ」という少年誌のメッセージを内面化してしまい、性暴力を含む作品を声高に称賛して、男らしくなれてると錯覚してた自分は本当に恥ずかしいし迷惑なことをしていたなと思います。


”To LOVEる”というワードを見ると指を止めてしまう習性がある管理人からすれば、この話題に行きつくのは必然だったわけでして。
過去何十年も、ジャンプはこのお色気漫画に対する批判との闘争を繰り広げ続けてきたわけですが、このキャンペーンの中身を見ているとこれまでの訴えとは少し違う物を感じました。今回のこのキャンペーンにて発信者が訴えているのは以下の通りです。

①作品内、メタ的視点で性暴力があるコマには注意書きをする。
②読者が表現をきちんと読み解けるように、性表現レベルを読者に合わせるための読者の性知識アンケート


つまり、性暴力の含まれる描写については「絶対にマネしないでくださいね」のような注意書きをつけてほしいと。そして読者のレベルを認識するためのアンケートをとってほしいと発信者は指摘しているようです。
これまで性的な描写について、ふさわしくないのでやめろみたいな抗議が多数だったのに対して、今回のこの指摘は少し毛色が違うなと感じました。


ジャンプの”エッチな漫画”の立ち位置


さて、話を少し変えて昨今の週刊少年ジャンプに掲載される、いわゆる”エッチな漫画”についてですが。
このキャンペーンの発信者がドキドキしながら読むTo LOVEるという作品も、実際には今から10年以上前にジャンプでの掲載は終了していて、歴史的にはもう古い漫画になっていると思われます。
今のジャンプだと同じ矢吹先生が描く「あやかしトライアングル」と「ぼくたちは勉強ができない」あたりが比較的そこのジャンルに近いのかなと思うのですが、最近連載が終了した「ゆらぎ荘の幽奈さん」はガッツリお色気漫画だった印象です。

そんな「ゆらぎ荘の幽奈さん」ですが、昨今はSNSで簡単に自分の意見を言えるようになったことも相まって、描写内容に対して炎上している様子を何回か見た印象があります。



特にこの時の炎上ですが、これは自分としても「やりすぎだなぁ」と思いました。
そう思った理由はなぜかというと、やはりお色気漫画というのは隠れてコソコソ読むという立ち位置の作品だからと思っているからです。
友達に堂々とお色気漫画を読んでいると公言して読む少年はなかなか少数派だと思いますし、親からもそういう作品を読んでいることは隠したいものじゃないですか。
だからこそ、”ジャンプ”という正統派の皮をかぶりつつも、ひそかに掲載されているお色気漫画は、少年からすればオトナの入り口に最適なコンテンツだと思うんですよね。

そんなお色気漫画の存在を世間に堂々と見せつけてしまったこの行為は「やりすぎ」なわけで、もちろん巻頭カラーや表紙など目立つ位置に作品を置いて、作品を宣伝するということは出版社側からすれば当然の行いだと思うのですが、それにしてもこの巻頭カラーでの描写はあまりにも直接的すぎると思います。
たとえば「可愛い」とか「綺麗」とか「美しい」とか、女の子がメインの漫画であればいくらでも描写の仕方はあると思うんですよね。ちなみにそこに文句言ってくる人はたぶんいくら話しても放っておいていい人種だと思います。


1s-To LOVEる巻頭カラー

確かに「ゆらぎ荘」のメインコンテンツはこういう性的ハプニングの応酬なのは間違いないと思います。それをそのまま宣伝してしまったのがこの時のケースだと思いますが、個人的には一昔前に比べると女の子が可愛い作品に対する”世間一般からの”風当たりが弱くなったことが、このように直接的な描写で宣伝してしまった原因なのかなとも思いました。
一昔前はオタクが好きそうな女の子が可愛い作品は、一般層には見えないところでしか展開されていなかったと思いますが、「けいおん!」くらいからコンビニとか色々な企業でも積極的にキャンペーンをするようになってきて、むしろ最近では当たり前になったように感じます。
そういう”世間一般”の見方が変わってきたこともあり、ジャンプでのお色気漫画の扱い方も変わってきたのかなとも思います。To LOVEるの連載があと5年遅かったらもう少し表紙や巻頭カラーも増えていたかもしれません。
ですが、女性のエロをここぞとばかりに非難する人たちの見方は変わっていないわけでして、ジャンプがお色気漫画を堂々と扱うことで非難の的が増えていくのは避けられないことなのかなと思います。


善悪を判別するのは読者じゃないのか


今回の「ぼくたちは/男子たちは 狼なんかじゃない。」キャンペーンに話を戻しますと、この発信者の思い込みの激しさと、そもそもこの話が本当なのかどうかはさておき、彼の価値観が「To LOVEる最高!」→「性暴力よくないよね…」に変わったことは悪ではないと思うんです。
だから彼が、未来の若者に性暴力にまみれた漫画を楽しく読んでほしくないという思いでこのキャンペーンを実施しているのであれば、自分は悪く言うつもりはないです。

ですが、自分からしてみれば、なぜジャンプがそこまでしなくてはならないのかとも思います。ジャンプが持つ読者に対する”責任”とは一体どんなモノなのでしょう。

ジャンプが持つ責任は自分が思う限りでは、読者にお金を払ってもらってその見返りに楽しい作品を提供すること、そして次にオトナに成長しつつある「少年」に対してふさわしいと編集部が判断した作品を提供することだと思います。
ではそこに、「こういう描写はこういう価値観でもって読んでね」と説明および、読者を教育する責任はあるのでしょうか。僕はないと思います。

小学校の授業に国語の時間があると思いますが、国語を学ぶ目標として小学校の学習指導要領には「思考力や想像力を養う」と記載しています。
また道徳科目の学習指導要領では「道徳的な心情,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。道徳的価値の自覚及び自己の生き方についての考えを深め,道徳的実践力を育成するものとする。」ともあります。
そういう価値観や基本的な道徳というのを教育する責任があるのは教育機関で、そこで養った考える力や想像力を活かして楽しむ社会的な場こそがジャンプなんじゃないでしょうか。
だからこそ、こういう描写はダメなどと子供に考えさせずに子供の価値観に直接的にメスを入れることは、ジャンプでやるべきではないと思います。


ぼくたちは男子たちは 狼なんかじゃない。

もちろん、オトナに成長しつつある「少年」に対してふさわしい描写にとどめることは、編集部が気をつけなければいけない点です。
たとえば、女の子が性暴力を受けるシーンがあるとするじゃないですか。そこで最終的にバッドエンドになることは週刊少年ジャンプの作品としては避けなければならないと思います。
そのシーンから加害者が何らかの罰を受ける描写だったり、被害者が加害者を何らかの理由で許す描写をきちんと入れることで、読んでいる少年が”自分で”こういうことはいけないことなんだと判断してもらうことが大事で、それがおそらく少年誌でのそういった描写の限界だと感じます。
そこに直接的に「こういうことはいけないんです」と言ってしまうのは作品としてナンセンスですし、もし読者が分からないのであれば、それを正すべきは親だったり周りの人間の責任ではないでしょうか。

そしてそういうお色気描写を一切なくすという動きもそれはそれで問題だと思っていまして、ジャンプの先にいってしまうとより過激な描写が増える気がするんですよね。
むしろジャンプでそういった描写をふさわしい形で少年に見せていった方が僕は少年のためになるんじゃないかと思うんですけどね。見せないことが決していいこととは限らないと思います。

今回のこの発信者の改善案については、個人的にはジャンプの責任範疇を越える要望だなぁと見ていて思った次第です。



週刊少年ジャンプの”社会的責任”

1s-アクタージュ 社会的責任

さて、話は変わりまして最近「アクタージュ」の原作者が逮捕されたことが話題になりましたね。
自分もこの作品は今のジャンプ作品の中でも好きな作品の一つだったので、毎週楽しみにしていたのですが、今回連載打ち切りとなってしまい非常に残念な思いをしています。
この「アクタージュ」の連載打ち切りの際に、ジャンプの編集部は次のように説明しています。

これまで多くの読者の皆様に応援していただいた作品をこのような形で終了することになり、編集部としても非常に残念でなりません。しかしながら、事件の内容と、「週刊少年ジャンプ」の社会的責任の大きさを深刻に受け止め、このような決断に至りました。


そこで気になったのが週刊少年ジャンプの”社会的責任”です。
”社会的責任”とは、「企業が利潤を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して、適切な意思決定をする責任」のことを指します。

つまり今回はこの「アクタージュ」という作品の現状を踏まえ、あらゆる社会的影響を精査した結果、連載を継続することはできないという決断に至ったということですが、Twitterなどを見ていると作品に罪はないんだから連載を続けてほしいという声もチラホラ見受けられました。
もちろん自分も連載を続けてほしいという気持ちもありましたが、「アクタージュ」が同人作品で個人が好き勝手に描いていたのであれば、社会的責任は作者の判断に委ねられるので好きにすればいいと思うのですが、商業雑誌での連載ですからそこには個人だけではなく企業としての社会的責任も含まれてしまいます。

作品に罪はないのは当然なのですが、その作品を継続すること=金儲けの構図に必ずなってしまう商業作品については、利益および損失が発生することにより数々の責任が伴ってしまい、また今回のような問題が発生すると、読者への責任だけではなく、被害者への責任も含まれてしまうため連載継続が難しくなってしまいます。
これは商業作品の宿命なんでしょうが、さらに日本一売れている漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」の連載作品ともなれば、社会的責任の大きさがますます大きなものになってしまうことを、他のジャンプ作家さんたちもきっと分かっているかと思いますが、今回の件で改めて思い知ったんじゃないでしょうか。


最後に


とまぁ、最近色々思うところがありまして、今回このような記事を書きましたが、「アクタージュ」のように最近ではジャンプっぽくない漫画も良く掲載されるようになってきていますし、SNSや電子書籍の台頭で漫画の担うべき立ち位置も変わってきているように感じる昨今ですが、日本一売れてる漫画雑誌「少年ジャンプ」としての立ち振る舞いはこれからも変わらずにいてほしいなと思います。


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最終更新日2021-09-21
Posted by ジレンマ、

Comments 

  1. :2020/08/24(月) 02:07:29 ID:
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